病気である確率
2017/08/15
カテゴリ:コラム「統計備忘録」
タグ:統計備忘録
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今年になって人間ドックを受けたところリウマチ因子の検査で陽性反応が出た。リウマチ因子についての説明には「陽性の人の約 40% が関節リウマチである」と書いてある。人間ドックの医師も、掛かりつけの医師も「今のところ心配しなくていいですよ」と言っているが、本当に心配ないのだろうか。気になって仕方が無いので、関節リウマチである確率をベイズの定理を用いて計算してみることにした。
ベイズの定理とは、事前確率と既知の条件付き確率から事後確率を求める公式で、今回の場合、事前確率を日本人の関節リウマチの有病率とすると、事後確率は検査で陽性反応を示した人が関節リウマチである確率となる。
まず、関節リウマチの有病率については、リウマチ情報センターのホームページによると日本全国の患者数は 70万人と書いてある。他の幾つかの情報を調べてみたが多めに見て約 1%というところらしい。
続いて、「関節リウマチの人が検査で陽性になる確率(真陽性率※注)」と「関節リウマチでない人が検査で陽性になる確率(偽陽性率)」の2つの条件付き確率を知る必要がある。リウマチ因子の検査の真陽性率は、どのホームページを調べても 80% 前後と書いてある。偽陽性率については、少ないところで 2%、多いところでは 10-15% という数字もあった。どの数字を使うか判断が付かないので 2% と 5% の2通りのケースを求めてみることにする。
事後確率を求める式は次の通りだ。パーセンテージは 100 で割ってから代入してほしい。
この式がピンと来ない時は、人数に換算してみると分かりやすい。仮に 1万人の人が検査を受けたとして、検査結果が陽性で、かつ関節リウマチを患っている人は 80人( = 0.8 × 0.01 × 1万人)。陽性になったけれども関節リウマチでない人は、偽陽性率が 2% の検査なら 198人( = 0.02 × 0.99 × 1万人)である。2つの人数を合わせた 278人が陽性反応を示した人数になる。このうちの関節リウマチの人の割合を求めれば事後確率となる。
実際に病気に かかっている |
実際は病気に かかっていない |
|
---|---|---|
検査結果が陽性 | 真陽性 80人 |
偽陽性 198人 |
検査結果が陰性 | 偽陰性 20人 |
真陰性 9,702人 |
さて、計算の結果であるが、偽陽性率が 2% だとすると事後確率は 28.8%、偽陽性率が 5% だとすると 13.9% だった。どうやら説明書きにあった 40% という数字は高すぎるようである。どのようなカラクリで 40% になったのかは分からないが、私としては、医師の言葉を信じて来年の検査まで様子見にしようと思っている。
※真陽性率は「感度」とも呼ぶ。感度に対し「特異度」という言葉がある。これは、健康な人が陰性になる確率、真陰性率だ。感度も特異度も高いのが優れた検査法と言える。感度を上げるために検査の判定基準を甘くしすぎると、検査法によっては偽陽性が増え特異度が下がる。逆に判定基準を厳しくしすぎると病気にかかっている人まで見逃され検査としての意味を成さなくなる。適切な判定基準を検討するための手法の1つにROC曲線がある。