出版バイアス
2017/08/14
カテゴリ:コラム「統計備忘録」
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統計学のジャンルの1つにメタ・アナリシスというものがあります。医学研究でよく使われます。エクセル統計にも Mantel-Henszel の方法など、メタ・アナリシスに使われる手法が幾つか搭載されています。メタ・アナリシスとは、過去に行われた複数の独立した研究結果を、統合して統計解析することを指します。
例えば、ある病気について新しい治療法を考えたとしても、最終的には臨床試験を行って効果を確認しなければいけません。しかし、コストや期間、倫理面の問題などがあり、1回の臨床試験で臨床例を数多く集めるのは困難です。N が小さいと検出力が落ちて有意になりにくく、折角、よい治療法を開発しても効果を証明できずお蔵入りになってしまうかもしれません。そこで、過去の同じテーマについて研究した論文を探し出し、複数の臨床試験のデータを統合して N を大きくしてやります。このとき問題になるのが出版バイアス( publication bias, 公表バイアスとも訳す)と呼ばれるものです。
出版バイアスとは、ネガティブな研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、そのため、公表論文を集めるとポジティブな結果になりやすいことを言います。ネガティブな研究結果が投稿されることは渋るでしょうし、論文を掲載する側も有効な治療法についての論文を好むという人間の心理によるバイアス(偏り)です。
オックスフォード大学では、1984年から1987年に解析が終了した 285 の臨床試験の発表状況を調査しました。1990年までに 48% にあたる 138 の試験結果が発表されましたが、有意な結果が得られた 154 の研究のうち 60% が発表されていたのに対し、有意な結果の出なかった 131 の研究については34%しか発表されていなかったそうです。有意な治療効果の発表されるオッズは、有意でない治療効果が発表されるオッズよりも 2.9倍高かったことになります。