論文ではどんな統計手法が使われている? 大規模調査から見えてきた実態
2026/10/26
カテゴリ:統計トピックス
研究論文では、さまざまな統計手法が使われています。平均値や標準偏差といった基本的な統計量から、t検定、分散分析、回帰分析まで、その種類は多岐にわたります。では、実際の研究論文では、どのような統計手法がどの程度使われているのでしょうか。
今回は、医学研究11万件以上、栄養学・食事研究757件、カナダの地域健康調査を利用した論文663件を対象とした調査を紹介します。実際の論文を分析した研究から、統計手法の使用状況を見ていきましょう。
目次
- 11万件以上の医学論文から見えてきた統計手法
- 栄養学・食事研究757件で使われている具体的な統計手法
- カナダの地域健康調査を使った論文663件では?
- 3つの調査から見えてくること
- 実際のデータ分析で統計手法を使うには
11万件以上の医学論文から見えてきた統計手法
2016年に発表された研究では、医学研究の論文113,450件を対象に、統計学・疫学の手法がどの程度使われているかを調べています。
研究者は、177種類の統計学・疫学関連の手法を調査対象として選び、論文の本文をテキストマイニングによって分析しました。その結果、主な手法の使用状況は次のとおりでした。
- 数値による記述統計:96.4%
- 疫学的な関連指標:53.5%
- 統計的推論に関する概念:52.9%
- 診断・分類の正確さを評価する手法:40.1%
- 仮説検定:28.8%
- 分散分析(ANOVA):23.2%
- 回帰分析:22.6%
最も多く確認されたのは、平均値などの数値による記述統計です。対象となった論文の96.4%に登場しました。分散分析や回帰分析も、それぞれ2割を超える論文で確認されています。
ここでいう「数値による記述統計」「仮説検定」「回帰分析」などは、統計手法を大きく分類したものです。たとえば、分散分析23.2%という結果は、分散分析に分類される手法が論文中に登場した割合を示しています。個々の検定手法についての使用割合を示した数字ではありません。
この研究では、手法の使用状況が時期によってどう変化したかも調べています。1995~2005年、2006~2010年、2011~2015年の期間を比較すると、回帰分析の使用割合は相対的に103.0%増加しました。欠測データへの対処法、生存時間分析、相関のあるデータを扱う分析についても、増加が報告されています。
出典:Meaney et al. (2016), “Text mining describes the use of statistical and epidemiological methods in published medical research,” Journal of Clinical Epidemiology, 74, 124-132.
論文情報:PubMedで論文情報を見る
栄養学・食事研究757件で使われている具体的な統計手法
次に、先ほどとは異なる研究から個々の統計手法について、より詳しい使用割合を見てみましょう。
2021年に発表された研究では、2018年に掲載された栄養学・食事研究の論文から757件を抽出し、統計手法や統計ソフトの使用状況を調べています。論文の方法(Methods)部分などから統計関連の用語を抽出し、どの手法がどの程度登場するかを分析しました。
記述統計
まず、データの特徴を要約するための統計量です。
- 平均値:60.6%
- 標準偏差:37.1%
- 割合・パーセント:23.2%
- 中央値:20.7%
- 度数:17.2%
平均値は対象となった論文の約6割で確認され、標準偏差も約4割の論文で登場しました。平均値はデータの中心的な位置を把握するために、標準偏差はデータのばらつきを把握するために使われます。研究結果を示す際には、平均値だけでなく、ばらつきや分布の特徴を把握することも重要です。
仮説検定
次に、グループ間の差やデータの関係などを検討するための検定手法です。
- カイ二乗検定:29.7%
- 独立2標本t検定:22.3%
- Mann-WhitneyのU検定:15.1%
- 対応のあるt検定:11.2%
この調査では、カイ二乗検定が最も多く、約3割の論文で確認されました。独立2標本t検定は約2割、Mann-WhitneyのU検定は約15%でした。これらは、同じ検定という分類に属していても、扱うデータや検討したい内容が異なります。たとえば、t検定は主に2つのグループの平均値を比較する際に使われます。一方、カイ二乗検定は、カテゴリーデータの度数や割合に関係があるかを調べる際に使われます。
このほか、ピアソンの相関係数、スピアマンの順位相関係数、Shapiro-Wilk検定、Fisherの正確確率検定、Kolmogorov-Smirnov検定、Kruskal-Wallis検定、Wilcoxonの符号付順位検定なども確認されています。
分散分析と回帰分析
複数のグループの比較や、変数間の関係を分析する手法についても、具体的な割合が報告されています。
- 分散分析(ANOVA):20.9%
- 反復測定分散分析(RMANOVA):7.1%
- 共分散分析(ANCOVA):6.6%
- ロジスティック回帰:20.2%
- 線形回帰:15.9%
- マルチレベルモデル:8.5%
分散分析は、複数のグループの平均値を比較する際などに使われます。反復測定分散分析は、同じ対象を複数の時点で測定したデータなどを扱う手法です。共分散分析は、グループ間の比較に加えて、ほかの変数の影響も考慮したい場合などに用いられます。
回帰分析では、ロジスティック回帰が20.2%、線形回帰が15.9%の論文で確認されました。マルチレベルモデルのように、より複雑なデータ構造を扱う手法も登場しています。
なお、ここでいう「線形回帰」は、重回帰分析だけを指す言葉ではありません。線形回帰は、説明変数が1つの単回帰と、複数の説明変数を用いる重回帰の両方を含む広い概念です。この調査で示された15.9%という割合だけでは、単回帰と重回帰がそれぞれどの程度使われているかまではわかりません。
また、統計的な結果を解釈するための指標として、p値は29.7%、信頼区間は24.3%、効果量は8.9%の論文で確認されました。疫学的な指標では、感度が10.6%、オッズ比が10.2%でした。
なお、これらの割合は、それぞれの手法や指標が確認された論文の割合です。1本の論文で複数の手法を使うことがあるため、割合を合計しても100%にはなりません。
出典:Coenen et al. (2021), “Statistical methods and software used in nutrition and dietetics research: A review of the published literature using text mining,” Nutrition & Dietetics, 78(3), 333-342.
論文全文:PubMed Centralで論文を読む
カナダの地域健康調査を使った論文663件では?
もう一つ、カナダの地域健康調査(Canadian Community Health Survey:CCHS)のデータを利用した論文を対象とする研究を紹介します。
2014年に発表されたこの研究では、複数の文献データベースから関連論文を収集し、条件に合った663件を分析しました。記述統計、基本的な統計手法、回帰分析などが、論文中にどの程度登場するかを調べています。
記述統計
- 記述統計全般:97.7%
- 度数や割合などの集計値:93.4%
- 平均値:51.9%
- 標準偏差:18.6%
記述統計は、対象となった論文のほとんどで確認されました。平均値は約半数の論文に登場しています。一方、標準偏差は18.6%でした。
基本的な検定手法
- 基本的な統計手法全般:29.7%
- カイ二乗検定:20.5%
- t検定:10.0%
カイ二乗検定は約2割、t検定は約1割の論文で確認されました。栄養学・食事研究の調査でも、カイ二乗検定やt検定はよく登場していました。ただし、今回の調査は対象とする研究分野もデータも異なるため、割合には違いがあります。
回帰分析
- 回帰分析全般:79.8%
- ロジスティック回帰:67.1%
- 線形回帰:12.4%
- 多変量回帰:17.6%
- 多変数回帰:3.5%
- ポアソン回帰:2.6%
- 二項回帰:2.0%
- 順序回帰:1.1%
- 非線形回帰:0.8%
- メタ回帰:0.6%
回帰分析全般は約8割の論文で確認され、その中ではロジスティック回帰が67.1%、線形回帰が12.4%でした。また、複数の説明変数を用いる回帰分析に関連する用語も報告されていますが、原論文では用語の使われ方に重なりがある可能性が指摘されています。
ただし、この研究は、カナダの地域健康調査データを利用した論文に対象を限定しています。ここでのロジスティック回帰の割合が高いからといって、あらゆる研究分野で同じ割合になるわけではありません。健康調査のように、個人の健康状態や生活習慣など複数の要因を扱う研究では、回帰分析が重要な役割を果たしていることがうかがえます。
出典:Yergens, D. W., Dutton, D. J., & Patten, S. B. (2014), “An overview of the statistical methods reported by studies using the Canadian community health survey,” BMC Medical Research Methodology, 14, 15.
論文全文:PubMed Centralで論文を読む
3つの調査から見えてくること
今回紹介した3つの調査では、対象となる分野や論文の選び方が異なります。そのため、数値を単純に並べて、ある手法がどの分野でも多い、少ないと判断することはできません。それでも、複数の調査を通して見えてくる傾向があります。
一つ目は、平均値や標準偏差などの記述統計が、研究論文で広く使われていることです。医学研究の大規模調査では、数値による記述統計が96.4%の論文で確認されました。カナダの地域健康調査を利用した論文でも、記述統計は97.7%に登場しています。
二つ目は、t検定やカイ二乗検定、分散分析といった検定手法も、実際の研究で使われていることです。栄養学・食事研究では、カイ二乗検定が29.7%、独立2標本t検定が22.3%の論文で確認されました。
三つ目は、回帰分析にもさまざまな種類があり、研究分野やデータの性質に応じて使い分けられていることです。栄養学・食事研究では線形回帰やロジスティック回帰が確認され、カナダの地域健康調査を利用した論文では、ロジスティック回帰が67.1%に登場しました。
統計手法には、幅広い研究で登場する基本的なものもあれば、特定の研究課題やデータ構造に応じて用いられるものもあります。研究で用いる手法は、研究目的やデータの性質、分析で明らかにしたいことに応じて選択されます。
実際のデータ分析で統計手法を使うには
このように論文で使われている統計手法を知ることは、統計学を学ぶうえでも、自分でデータを分析するうえでも参考になります。そして、実際に分析を行う際には、研究目的やデータの性質に合った手法を選ぶことに加え、その手法を使って分析できる環境も必要です。
Excel上で統計解析を行いたい場合には、統計解析ソフト「エクセル統計」(BellCurve)があります。Excelの操作環境を活用しながら、130を超える統計解析機能を利用できるソフトウェアです。
たとえば、今回紹介した手法のうち、次のような分析に対応しています。
- 平均値や標準偏差などを求める記述統計量
- 独立した2つのグループや対応のあるデータを比較するt検定
- クロス集計表を使ったカイ二乗検定
- 一元配置分散分析や二元配置分散分析など各種分散分析
- 重回帰分析やロジスティック回帰分析などの多変量解析
このほか、ノンパラメトリック検定、因子分析、クラスター分析、Cox比例ハザードモデルなど、さまざまな分析機能を搭載しています。
統計手法は、名前を知っているだけでは十分ではありません。どのようなデータに適しているのかを理解し、実際のデータを分析して結果を読み解くことが大切です。論文に登場する統計手法を知ることをきっかけに、統計解析を学んだり、自分のデータで分析を試したりしてみてはいかがでしょうか。
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